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慢性炎症を抑える食事法の科学

慢性炎症は老化や生活習慣病の根本原因。最新研究で判明した炎症を抑える食品と、避けるべき食品を科学的根拠とともに解説します。

Nutrify Lab編集部

Nutrify Lab編集部

慢性炎症を抑える食事法の科学

あなたの体の中で、静かに進行している「火事」があることをご存知でしょうか。それが慢性炎症です。切り傷や打撲による一時的な炎症とは異なり、慢性炎症は自覚症状がほとんどないまま、数ヶ月から数年にわたって持続します。そして気づいた時には、動脈硬化、糖尿病、がん、アルツハイマー病といった深刻な病気へと発展している可能性があるのです。

ハーバード大学医学部の研究によると、慢性炎症は老化を加速させる最大の要因の一つであり、寿命を左右する重要な指標となることが明らかになっています。しかし朗報があります。私たちが毎日口にする食べ物には、この慢性炎症を鎮める力があるのです。今回は最新の科学的知見をもとに、炎症を抑える食事法について詳しく解説していきます。

なぜ現代人は慢性炎症を起こしやすいのか

炎症反応は本来、私たちの体を守るための防御システムです。怪我をしたり、細菌やウイルスに感染したりすると、免疫細胞が活性化し、炎症性サイトカインという物質を放出して敵と戦います。通常であれば、脅威が去れば炎症も自然に収まります。

ところが現代の生活環境では、この炎症反応が常に「オン」の状態になってしまうことがあります。その原因は私たちの食生活の劇的な変化にあります。過去100年間で、人類の食事内容はかつてないほど急速に変化しました。精製された砂糖の摂取量は100年前の10倍以上に増加し、加工食品が食卓の大部分を占めるようになりました。

さらに深刻なのは、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の摂取バランスの崩壊です。人類の進化の過程では、この比率は1:1から4:1程度でした。しかし現代の西洋型食事では、この比率が20:1から25:1にまで偏っています。オメガ6脂肪酸は炎症を促進する作用があり、このアンバランスが慢性炎症の大きな要因となっているのです。

2019年にNature Medicine誌に掲載された大規模研究では、慢性炎症のマーカーであるC反応性タンパク質(CRP)やインターロイキン6(IL-6)の血中濃度が高い人ほど、心血管疾患や2型糖尿病、さらには認知症のリスクが有意に高いことが示されました。つまり、慢性炎症は単一の病気ではなく、あらゆる生活習慣病の共通基盤となっているのです。

炎症を加速させる危険な食品群

まず知っておくべきは、どのような食品が炎症を促進するのかということです。2020年にJournal of the American College of Cardiologyに発表された研究では、166,000人以上を対象に32年間追跡調査を行い、炎症を促進する食事パターンを明らかにしました。

最も問題となるのが精製された炭水化物と添加糖です。白いパン、白米、砂糖入り飲料などは血糖値を急激に上昇させ、インスリンの大量分泌を引き起こします。この血糖値の乱高下が、糖化反応(グリケーション)を促進し、AGEs(終末糖化産物)という炎症性物質を生成します。AGEsは一度形成されると体内から除去されにくく、血管や臓器に蓄積して慢性炎症の温床となります。

揚げ物や高温調理された食品も要注意です。120度以上で調理された食品には、アクリルアミドやヘテロサイクリックアミンといった炎症性物質が生成されます。特にファストフードのフライドポテトには、トランス脂肪酸、過剰な塩分、AGEsという炎症を促進する要素が三拍子揃っています。週に2回以上ファストフードを食べる人は、月1回以下の人と比較して、CRP値が平均して35%も高いことが報告されています。

加工肉製品(ベーコン、ソーセージ、ハムなど)も炎症を促進します。これらには亜硝酸ナトリウムという保存料が含まれており、体内でニトロソアミンという発がん性物質に変化します。世界保健機関(WHO)は2015年に加工肉を「グループ1の発がん物質」に分類しましたが、その背景には慢性炎症を介した発がんメカニズムがあるのです。

強力な抗炎症作用を持つスーパーフード

一方で、炎症を抑制する食品も数多く存在します。その筆頭が脂肪の多い魚です。サーモン、サバ、イワシ、アンチョビなどに豊富に含まれるEPAとDHAは、炎症を収束させる特殊な脂質メディエーター(レゾルビン、プロテクチン、マレシンなど)の原料となります。

2021年にCirculation誌に発表されたメタアナリシスでは、週に2回以上脂肪の多い魚を食べる人は、ほとんど食べない人と比較して、心血管疾患リスクが16%、炎症マーカーが平均23%低下することが示されました。重要なのは、この効果がサプリメントではなく、魚そのものを食べた場合により顕著に現れるという点です。

野菜と果物の中でも、特に色の濃いものが抗炎症作用に優れています。ブルーベリー、ブラックベリー、チェリーなどのベリー類に含まれるアントシアニンは、NF-κB(エヌエフカッパビー)という炎症の司令塔となる転写因子の活性を抑制します。毎日一握りのベリー類を摂取することで、IL-6やTNF-αといった炎症性サイトカインが20-30%減少することが複数の研究で確認されています。

緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)も強力な抗炎症物質です。日本の静岡県で行われた大規模疫学調査では、1日5杯以上緑茶を飲む人は、1杯未満の人と比較して、心血管疾患による死亡リスクが26%低いことが判明しました。EGCGは炎症性サイトカインの産生を抑制するだけでなく、細胞の抗酸化システムを活性化する作用も持っています。

地中海式食事法が証明した抗炎症効果

数ある食事法の中で、最も科学的エビデンスが豊富なのが地中海式食事法です。オリーブオイル、魚、野菜、果物、全粒穀物、ナッツ、豆類を中心とし、赤肉や加工食品を控えるこの食事法は、慢性炎症を抑制する理想的なモデルとして注目されています。

スペインで実施されたPREDIMED研究は、7,447人を対象に約5年間追跡した大規模ランダム化比較試験です。地中海式食事法を実践したグループでは、低脂肪食グループと比較して、心血管疾患リスクが30%減少し、CRPやIL-6などの炎症マーカーが有意に低下しました。

特筆すべきはエクストラバージンオリーブオイルの効果です。1日大さじ4杯(約50ml)のエクストラバージンオリーブオイルを摂取したグループでは、炎症マーカーが平均40%も減少しました。オリーブオイルに含まれるオレオカンタールという成分は、イブプロフェンと同様の抗炎症作用を持つことが判明しています。ただし、この効果はエクストラバージンオリーブオイルに限られ、精製されたオリーブオイルでは期待できません。

地中海式食事法のもう一つの特徴は、食事を楽しむ文化です。家族や友人とゆっくり食事を楽しむことで、ストレスが軽減され、副交感神経が優位になります。これにより消化吸収が改善し、腸内環境も整います。実際、孤食が多い人は会食が多い人と比較して、炎症マーカーが15-20%高いという報告もあります。

スパイスとハーブが持つ驚きの抗炎症パワー

料理に使うスパイスやハーブにも、医薬品に匹敵する抗炎症作用があることが分かってきました。その代表格がターメリック(ウコン)に含まれるクルクミンです。

インドでは何世紀にもわたってターメリックが民間薬として使われてきましたが、その効果は科学的にも実証されています。2017年にJournal of Medicinal Foodに発表されたメタアナリシスでは、クルクミンの摂取により、関節炎患者の痛みと炎症が有意に改善することが示されました。興味深いことに、その効果は一部の抗炎症薬と同等でありながら、副作用はほとんど報告されていません。

ただし、クルクミンには吸収率が低いという課題があります。この問題を解決するのが黒コショウです。黒コショウに含まれるピペリンは、クルクミンの吸収率を2000%も向上させることが研究で明らかになっています。カレーにターメリックと黒コショウが使われるのは、まさに理にかなった組み合わせなのです。

生姜も優れた抗炎症食品です。生姜に含まれるジンゲロールとショウガオールは、COX-2という炎症酵素を阻害します。1日2グラムの生姜粉末を12週間摂取した研究では、変形性膝関節症患者の痛みが41%減少し、炎症マーカーも有意に低下しました。生の生姜をすりおろして紅茶に入れたり、料理に使ったりすることで、日常的に摂取できます。

シナモン、オレガノ、タイム、ローズマリーなども抗炎症作用を持ちます。ペンシルベニア州立大学の研究では、これらのスパイスを豊富に使った食事を摂ると、高脂肪食による炎症反応が30%抑制されることが示されました。毎日の料理に積極的にスパイスやハーブを取り入れることで、美味しく炎症を予防できるのです。

断食と時間制限食がもたらす炎症リセット効果

近年注目を集めているのが、間欠的断食や時間制限食による抗炎症効果です。16時間断食(16:8ダイエット)や5:2ダイエット(週2日のカロリー制限)などの方法があります。

2019年にCell Metabolism誌に発表された研究では、時間制限食により炎症性単球の数が劇的に減少することが報告されました。食事時間を1日8時間以内に制限したグループでは、わずか4週間でCRP値が平均43%低下し、酸化ストレスマーカーも改善しました。

この効果のメカニズムは、オートファジー(細胞の自食作用)の活性化にあります。断食により栄養供給が断たれると、細胞は生き残るために損傷したタンパク質や細胞小器官を分解してリサイクルします。この過程で、炎症を引き起こす損傷した細胞成分が除去され、細胞が若返るのです。2016年にノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典教授の研究により、このオートファジーの重要性が世界的に認識されるようになりました。

ただし、断食は誰にでも適しているわけではありません。妊娠中や授乳中の女性、成長期の子ども、糖尿病で薬物治療を受けている人は、医師の指導なしに断食を行うべきではありません。また、摂食障害の既往がある人も避けるべきです。

腸内環境と炎症の密接な関係

慢性炎症を語る上で、腸内環境の重要性は無視できません。腸管は体内で最も大きな免疫器官であり、腸内細菌のバランスが崩れると、リーキーガット症候群と呼ばれる状態が生じます。

リーキーガットでは、腸管バリアの透過性が亢進し、本来は吸収されないはずの細菌由来の毒素(リポ多糖:LPS)が血中に漏れ出します。このLPSは強力な炎症誘導物質であり、全身の慢性炎症を引き起こします。肥満者の血中LPS濃度は、正常体重者の2-3倍高いことが報告されています。

腸内環境を改善し、リーキーガットを防ぐためには、プレバイオティクス(食物繊維)とプロバイオティクス(善玉菌)の摂取が重要です。特に水溶性食物繊維は腸内細菌により短鎖脂肪酸に変換され、腸管バリア機能を強化します。1日25-30グラムの食物繊維摂取を目標に、野菜、果物、全粒穀物、豆類を積極的に食べましょう。

発酵食品も腸内環境改善に効果的です。韓国の研究では、キムチを毎日摂取することで、炎症マーカーが20%減少し、善玉菌が増加することが示されました。日本の伝統的な発酵食品である味噌、納豆、ぬか漬けなども同様の効果が期待できます。

実践的な抗炎症食事プログラム

ここまでの知識を踏まえて、実際に始められる抗炎症食事プログラムを提案します。急激な変化はストレスとなり、かえって炎症を誘発する可能性があるため、段階的に実施することが大切です。

第1週目は、明らかに炎症を促進する食品を減らすことから始めます。砂糖入り飲料を水やお茶に置き換え、揚げ物を週2回以下に制限します。同時に、毎食に野菜を1品追加し、できれば5色以上の野菜を1日で摂取することを心がけます。

第2週目からは、オメガ3脂肪酸の摂取を増やします。週に2-3回は魚料理を取り入れ、間食にはナッツ類(特にくるみ)を選びます。調理油をエクストラバージンオリーブオイルに変更し、1日大さじ2-3杯を目安に使用します。朝食にはオートミールやチアシードを加えることで、食物繊維と良質な脂質を同時に摂取できます。

第3週目には、スパイスとハーブを積極的に活用します。朝はターメリックと黒コショウを加えたゴールデンミルク、昼食にはオレガノやバジルを使った地中海風サラダ、夕食には生姜をたっぷり使った料理を取り入れます。また、食後のデザートを果物(特にベリー類)に置き換えることで、抗酸化物質の摂取を増やします。

第4週目以降は、時間制限食に挑戦してみるのも良いでしょう。まずは12時間断食(夕食から翌朝食まで12時間空ける)から始め、慣れてきたら14時間、16時間と延長していきます。この際、断食時間中も水分補給は欠かさないようにしましょう。

炎症を測定して効果を実感する

抗炎症食事法の効果を客観的に評価するために、炎症マーカーの測定を検討してみてください。高感度CRP(hs-CRP)検査は、多くの健診センターや病院で受けることができます。

hs-CRPの基準値は以下の通りです: 1.0 mg/L未満は低リスク、1.0-3.0 mg/Lは中等度リスク、3.0 mg/L以上は高リスクとされています。抗炎症食事法を3ヶ月続けることで、多くの人でhs-CRPが30-50%低下することが期待できます。

その他の指標として、赤血球沈降速度(ESR)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)なども炎症の評価に使われますが、これらは専門的な検査となるため、医師と相談の上で実施を検討してください。

血液検査以外にも、体感できる変化があります。関節の痛みやこわばりの軽減、肌の調子の改善、疲労感の軽減、睡眠の質の向上などは、炎症が改善している良いサインです。体重や腹囲の減少も、内臓脂肪による炎症が軽減していることを示唆します。

まとめ

慢性炎症は「サイレントキラー」と呼ばれ、自覚症状がないまま進行し、様々な疾患の根本原因となります。しかし、私たちには強力な武器があります。それが毎日の食事です。

炎症を促進する精製糖質、加工食品、トランス脂肪酸を避け、抗炎症作用のある魚、野菜、果物、オリーブオイル、スパイスを積極的に摂取することで、体内の炎症を確実に鎮めることができます。地中海式食事法をベースに、日本の伝統的な発酵食品を組み合わせることで、より効果的な抗炎症食が実現できるでしょう。

重要なのは、完璧を求めすぎないことです。週の80%程度、抗炎症食を実践できれば十分な効果が期待できます。時には好きなものを食べて楽しむことも、ストレスを減らし、結果的に炎症を抑えることにつながります。

今日の夕食から、一品だけでも抗炎症食品を加えてみてください。サーモンのグリル、カラフルなサラダ、ターメリックを使った料理など、選択肢は無限にあります。3ヶ月後、あなたの体は内側から変わり始めているはずです。慢性炎症という見えない敵と戦う最良の方法は、美味しく楽しい食事なのです。

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